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As same asの不思議――林 龍次郎

 
 
sameには定冠詞
 sameという英単語について述べてみたい。誰でも知っている単語だが、学生の書く英語を見ているとどうしても気になることがあるからである。
 sameという語の前にはほとんどと言っていいほど定冠詞theが伴う。このことが多くの学生の頭に入っていないのである。ときにtheの代わりにthisやthatが生じたり、口語の省略表現、たとえばレストランでの注文の場面で「私にも同じものを」の意味で “Same here.” や “Same for me, please.”と言ったりすることはある。しかしふつうは必ずthe sameだと思っておいて間違いない。ところが、日本人学生の多くは(おそらく)何も考えずにsameを定冠詞なしで用いているのである。
 

as same as?
 もっとも気になるのはas same as …という言い方である。これはもちろん正しい英語ではない。A is as same as B.とは言えず、正しいのはA is the same as B.である。しかし日本人学生の書く英語にはas same asがしばしば出現するのである。以前からこれがとても不思議であった。大学の同僚の教員もこのことを指摘していたので頻出するのは間違いないのだろう。“as … as ~”は言うまでもなく「~と同じぐらい…」という意味であるので「…」のところにsameを入れると「同じぐらい同じ」ということになって意味をなさないというのは明らかなはずである。as same asが英語のコーパスには現れることはないのか、信頼できるコーパスを検索してみたところ、アメリカ英語のCOCA (Corpus of Contemporary American English)には1例、イギリス英語のBNC (British National Corpus)には4例が見つかり、ゼロではなかった。とはいえ、これらは会話における崩れた言語使用の例である。(なお、検索エンジンのGoogleによってas same asをインターネット全体で検索してみると、実はこれが物凄い数ヒットするのである。ネット上の用例がいかに頼りにならないかがわかる。このような英語を書くのは日本人など非母語話者だけでなく、母語話者にもいるのかもしれない。)
 
 日本人の作文でas same asが生じるのは主に「…と同じように、…と同じぐらい」という副詞的用法の場合のようである。このようなときはin the same way as …のように言い換えると正しい英語になる場合が多い。「その子どもたちは大人と同じようにふるまう」ならばThe children behave in the same way as adults.である。そもそもsameにこだわらない方がよいのかもしれない。sameを使わずにjust as …, just like …, を使うか、場合によってはas well as …を用いるとうまく表現できる。「知識や技術と同じぐらい辛抱強さが必要になるだろう」はPatience will be needed as well as knowledge and skill.でよい。

sameにまつわる「伝統」
 さて、sameの語法に関して日本で伝統的によく教えられてきたことがある。This is the same watch that I lost last week.のように関係代名詞thatを用いたら「私が失ったのと同一の時計」という意味で、This is the same watch as I lost last week.のように関係代名詞asを用いたら「私が失ったのと同種の時計」という意味だというものである。しかし、このようなことはまったく事実に合っていない。asもthatも区別なく用いられるのである。『オーレックス英和辞典』では、sameのこの件に関して「意味が異なると言われるが、実際には区別なく用いられている」という語法注記をわざわざつけた。しかしこれは日本の教室での伝統を考慮してのことで、本来はこの注記自体蛇足に近いものであり、この場合のasとthatの違いなど初めから気にしなくてよいことなのである。このような実態に合わない「規則」を覚えてきた学生が今も存在して、sameにほとんどの場合theがつくという事実を知らないとしたら、誠に滑稽なことと言わざるを得ない。定冠詞theを前に伴うことは、辞書の表示としては((通例the ~))などと書かれるだけになるが、本当はこちらの方こそ注記にして目立たせるべきなのかもしれない。
 
 英語教師は文法・語法について、些細な部分と基本的で必須な部分との区別をよく意識し、バランスよく力をつけさせていくことが必要である。
 
 
 
【プロフィール】林 龍次郎(はやし りゅうじろう)
 聖心女子大学教授。専門は英語統語論、語彙論、意味論、語法研究。著書に『アルファ英文法』(研究社)など。
 『オーレックス英和辞典』編集委員。『コアレックス英和辞典』監修。

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