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英語のオシゴトと私 第10回 ―前田隆子
良き師たちとの出会い

2019年11月5日|英語のオシゴトと私

 大学で英語を教えるようになってすでに四半世紀が過ぎてしまった。思えば、「将来就きたい職業は?」と聞かれれば、小学校時代は「小学校の先生!」と答え、中学・高校時代には「英語の先生!」と答えたほど、私はずっと先生になりたいと思ってきたらしい。だから大学では迷わず教職課程を履修し、晴れて中学・高等学校の英語の教員免許を取得した。
 どうしてこんなにも先生になりたかったのか?それは、幼稚園から大学院に至るまで、良き師との出会いの連続だったからだと思う。特に中学1年の時の英語の先生との出会いが私の一生を決めてしまったようだ。その方は若い女性の先生で、彼女の素晴らしい英語の発音のおかげで、一歩でも先生に近づきたいという憧れの思いを抱いて、一生懸命に英語を勉強した。また頻繁に職員室に先生を訪ねて、いろいろな質問をしたり、先生から特別な課題(“The Elves and the Shoemaker”『こびとのくつや』という絵本を毎週少しずつ日本語訳していくというもの)をいただいて、必死に取り組んだことは良い思い出でもある。この頃同時にNHKのラジオ講座「基礎英語」を毎日楽しく聞いていた。小島義郎先生が講師をなさっていて、毎週土曜日のキャロライン洋子さんが歌う「英語の歌」のコーナーが一番のお気に入りだった。この番組を聴きながら、たくさんの英文を音読したり、英語の歌を覚えたりしたことが私の英語力の素地となっている。
 高校は帰国子女の多い学校に進んだのだが、入学式の日に学校に到着してトイレに入っていたら、扉の向こう側から英語のおしゃべりが聞こえてきて、「私はこの高校でやっていけるのだろうか。」と急に不安に襲われたことを今でもはっきりと覚えている。しかしそれはあっという間に杞憂に終わり、帰国子女の友人たちからたくさんの外国の話を聞いて、海外へのあこがれが一層増したものだった。ただこの高校3年間は、英語の「生き字引」とも言える友人に頼りすぎたきらいもあり、英語の勉強が少しおろそかになった時代でもあった。
 大学入学後は2年次から英米文学科に進み、様々な英文学作品に親しんだり、古英語と格闘したりした。この頃もNHKのラジオ講座のお世話になり、大学4年生の頃は杉田敏先生の「やさしいビジネス英語」を聞くようになっていた。今回このリレーエッセイのバトンをいただいた三谷裕美先生(獨協大学)は当時からの友人で、二人でラジオ講座のスキット1週間分を週末に暗記し、月曜日には暗記した英文で会話するという練習をしていた。(良き友との出会いにも感謝!)
 さらに大学では教職課程を履修したことは先に述べたが、「英語科教育法」の授業で見たBBC制作の“Teaching Observed”という番組が私の研究テーマとの出会いとなった。この番組は、アジア、アフリカ、南米など英語が第一言語ではない国々での初等学校における英語教育を紹介したもので、私にとっては「目からうろこ」であった。当時から日本人の英語力の低さは問題視されていたが、「中学からではなく小学校から英語教育を開始すれば、日本人の英語力はもっと向上するのではないか。」というなんともシンプルな仮説を立てて、卒論に取り組んで以来、私の生涯の研究テーマとなった。
 このように私の人生は良き師たちによって導かれたと言っても過言ではない。現在は小学校で英語を教える教員のための研修や教員養成に関わっているが、私は彼らにとって「良き師」となれているのだろうか?私が英語との「幸せな出会い」をしたように、全国の子供たちが良き師を通して英語と幸せな出会いができるように、これからも日々精進していきたい。

【プロフィール】前田 隆子(まえだ・たかこ)

明海大学・外国語学部・英米語学科・専任講師。専門は英語教育学。『学校変革実践シリーズ 第7巻 国際人を育てる』(ぎょうせい、1998年)、『スタディベア 中学 英文法』(旺文社、2002年)、『大学における学習支援への挑戦―リメディアル教育の現状と課題―』(ナカニシヤ出版、2012年)などの執筆に携わる。趣味は英語、韓国語、タガログ語で歌うこと。

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