O-LEXブログ

新語リポート 第3回 略語とその種類①―花本金吾

2015年12月16日|新語リポート

 
 英和辞書の編集作業における新語の扱いについて全6回の予定で話を進めているが、第3回の今回は略語(abbreviations)について述べてみたい。
 略語は長い語(句)や概念を短縮したものなので、書く場合にはスペースの節約になるばかりか、話す場合にも素早い意思の疎通が図りやすくなる。略語は日々数多く生み出されており、瞬時に消えてしまうものがある一方で、長く生存権を獲得していくものもある。辞書編集に際しては、それらの見極めが重要な作業の一つになる。
 略語は一般的には、①語(句)の一部を切り取って作る「端折り語(clipped word)」、②複数の語群または複合語のそれぞれの頭文字を並べて作る「頭(かしら)文字語、頭字語(initialismまたはacronym)」、③2個の単語それぞれの一部を組み合わせて作る「混成語(blend)」の3つに分類される。
まずは、それぞれについて具体例を示そう。
 ①「端折り語」はstump-word(切り株語)、elliptical word(省略語)などとも呼ばれるが、application(s)「アプリ」を意味するapp(s)、advertisement(s)「広告」を意味するad(s)などがその典型例である。return (ticket)、oil (painting)のように複合語の第2要素を省略する、いわゆるclipped compoundはあまり多くはないが、これも端折り語に属する。作り方としては語頭を残すものが多いが、(heli)copter、(tele)phoneのように語尾を残すものや、(in)flu(enza)、(de)tec(tive)のように中央部を残したものもある。また人名の愛称では、Elizabethのように、Liz [Lizzie, Lizzy]、Beth [Betty, Bettie]と異なる部分を略す場合もある。
 ②「頭文字語」では、BBC /bìː biː síː/(British Broadcasting Corporation)「英国放送協会」やBSE /bìː es íː/(bovine spongiform encephalopathy)「牛海綿状脳症、狂牛病」のように、略語のアルファベットを1字ずつ発音するものと、MOOC(s) /muːk(s)/(massive open online course(s))「大規模オープンオンライン講座」やAIDS /eɪdz/(Acquired「Immune Deficiency [OR Immunodeficiency] Syndrome)「後天性免疫不全症候群、エイズ」のように、独立した単語として発音するものとの2種類がある。かつては前者をinitialism、後者をacronymと称し、区別して扱われることも多かったが、現在ではその区別はほぼなくなった。その結果、initialismとacronymはほぼ完全な同義語となった。
 区別がなくなったのには、それなりの理由が考えられる。最近では、例えば、VAT(value-added tax)「付加価値税」のように /vìː eɪ tíː/ と /væt/ の二通りに発音するものや、DVD-ROM /dìːˌviː díː rɑ̀(ː)m/ のように1つの略語の中に2種類の発音の仕方が混ざったものも増え、区別をする意味が失われてしまったわけである。
 この②の範疇に入る略語として、この数日の間にぼくの目に触れたものには、TPP(Trans-Pacific (Strategic Economic) Partnership (Agreement))「環太平洋(戦略的経済)連携協定」、TTIP(Transatlantic Trade and Investment Partnership)「環大西洋貿易投資パートナーシップ」、LGBT(lesbian, gay, bisexual and transgender)「性的マイノリティー」(最近ではquestioningあるいはqueerを表すQを加えて、LGBTQとすることも増えた)などがある。
 特にSNS上ではスペース上の制約から一つの概念を表す略語が生まれやすく、ユーモア感を持つものも多い。最近ますます広く使われるようになっているemoji「絵文字」は、略語そのものではないが、シンボルによって意思の疎通を図ろうとする点では、この種の略語と意図を一つにするものと言えるであろう。
 具体例は、TGIF(Thank God It’s Friday)「やれやれやっと金曜日だ」、NIMBY(not in my backyard)「ニンビー(的態度)」、FOMO(fear of missing out)「(SNSを使わないときの)一人取り残される恐怖」、YOLO(You Only Live Once)「人生は一度きりだ」などである。
 最後の③「混成語」とは、breakfastとlunchとを組み合わせて作ったbrunchのような略語のことである。多産な範疇であるが、これについては次回に譲らせていただくことにする。
 
 
【プロフィール】花本 金吾(はなもと きんご)
早稲田大学名誉教授。専攻はアメリカ文学・アメリカ語法。『全国大学入試問題正解・英語』の校閲のほかに『英熟語ターゲット1000・4訂版』『基礎英作文問題精講・改訂版』(いずれも旺文社)など著書多数。『オーレックス英和辞典』編集委員、『オーレックス和英辞典』専門執筆。

カテゴリー

最近の投稿