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英語のオシゴトと私 第20回―渡辺敦子
教師の英語? 大学生の英語?

2021年5月20日|英語のオシゴトと私

 英語のオシゴトと私を考えたところ、当たり前のことかもしれませんが、必要とされている英語の知識、また使用する英語もずいぶん異なるという、若かりし頃の体験が思い起こされました。

 私は高校生の時に1年間アメリカに留学し、大学で再びアメリカに渡りました。アメリカの大学を卒業後に帰国した時は、日常会話においては日本語より英語の方が楽であるように感じていました。英語を教える機会に恵まれ、英会話学校、専門学校、大学で英語を教え始めました。しかし、英語を話すのが楽だから簡単に教えられたということはなく、教えるためにまた英語を学びなおしました。
 具体的には、アメリカ生活ではほとんど使わなかったwhom、そして直接話法と間接話法、to不定詞の名詞的用法、形容詞的用法、副詞的用法等です。留学中は、構文という概念とは関係なく英語を使用していたので、英語を見る視点が変わり、興味深い体験でした。

 また教師になって気づいたのが、学生の時に使っていた英語と教師が使う英語は異なるということです。当時、同僚と英語で話していて、相手の反応が予期しないものだったことが何回かありました。
 例えば、学生の時は、疑問文にするのが面倒なので、相手に対する問いを疑問文、付加疑問文にせずに“right?”を文末につけて使っていました。“This is the way I need to do it, right?”などのように。しかし、この表現を使用したある時(話の核心に大きく関わっていたのですが)、“Don’t right me.(そういう言い方しないでよ)”と言われて驚いたことがあります。“right?”は少し砕けた若者言葉だと捉えられたのでしょう。
 また、“Good luck!”ではこんな経験があります。学生の時には「がんばって」という意味で、例えばテストを受ける前の友人などによく使っていました。ある時、オーストラリアから日本に来たばかりの先生に、「がんばって」というつもりで“Good luck!”を使いましたが、“I don’t need luck.”と言われました。このような返答をされたことはなく、少し驚きました。その先生は“I don’t need luck.”で「僕には実力があるから運は必要ないよ」という意味合いで冗談のように使っていたのかと思います。“Good luck!”という表現には「頑張って」以外にも文字通り「幸運を祈っています」という意味合いから場合によっては「相手には幸運が必要である」という少し上から目線な表現として捉えられる可能性もあるのだろうとその時に思いました。“I hope things will go well for you.”などの方が無難だったのかもしれません。このやりとりは特定な状況で特定の個人間でのことなので、Good luck!を使わない方がよいということではありません。同じ表現でも文脈・相手によって意味合いが変わってくるということです。

 このような経験から、私は他者の反応に非常に敏感になり、そして教師としてどういう英語を使うべきかに、特に注意を払うようになりました。
 アメリカで大学生だった時は毎日のように使っていたけれども、英語の教師になってからは、同僚には使わなくなった表現がいくつかあります。
 Awesome! (すごい!)
 Bogus! (ひどい!)
 wicked(すばらしい)
 bad(1987年にリリースされたマイケル・ジャクソンのアルバムBADのように「かっこいい」という意味でのbadです)
 It was a blast! (とても楽しかった!)
 I am psyched! (すっごく楽しみで興奮している!)
 I freaked out! (パニクっちゃった!)
 これらの表現は、少し砕けすぎていると自分でも思ったのでしょう。

 その後、英語のオシゴトを30年ほど続け、今では以前よりは知識もつき、使うべき言葉もわかってきたように思います。英語の教師になるには英語が話せるだけでは務まらないということを、今さらながらに感じています。

 

【プロフィール】渡辺 敦子(わたなべ・あつこ)


文教大学文学部英米語英米文学科教授。コロンビア大学大学院にてTESOL(英語教授法)修士号取得。ロンドン大学(Institute of Education, University of London)にて博士号取得。専門分野はふり返り(reflective practice)による教員養成。代表的な著書は『リフレクティブ・プラクティス入門』(ひつじ書房)、『Reflective Practice as Professional Development: Experiences of Teachers in Japan 』(Multilingual Matters)など。

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