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故郷(ふるさと) ―続・日本の歌―

2011年8月19日|連載 続・日本の歌

童謡からロックに至るまで、幅広いジャンルからポピュラーな日本の歌の歌詞の一部を英訳して掲載している『オーレックス和英辞典』のコラム「日本の歌」。ここでは毎月1作品ずつ、全歌詞の翻訳を紹介しています。

8月は「故郷」です。誰もが心の中に大切にしているであろう、生まれ故郷の思い出、そんな郷愁は日本人独特のものなのかもしれません。イギリス出身の東京外国語大学客員教授 Caroline E. Kano 先生による翻訳をお楽しみください。


故郷
作詞・高野辰之 作曲・岡野貞一

兎追いしかの山
小鮒(こぶな)釣りしかの川
夢は今もめぐりて
忘れがたき故郷

いかに在ます父母
つつがなしや友がき
雨に風につけても
思い出ずる故郷

志をはたして
いつの日にか帰らん
山は青き故郷
水は清き故郷


My Childhood Home
Translated by Caroline E. Kano

I chased hares ①among its mountains,
Fished small carp there in its stream.
These memories still fill my mind,
I cannot forget ③my childhood home.

I wonder how my parents fare?
I trust my friends are well?
Whether faced by rain or storm,
I think fondly on my childhood home.

When I have attained my dream,
I will return at last to my home,
My home, where the mountains are green,
My home, where ④the stream runs clear.


 

①日本語では高山から丘までを広く「山」と呼ぶが、英語ではmountainは高い山のみを指す。子供が遊んでいる場所が高山の上とは考えにくいので、ここでは on its mountainsではなく、among its mountainsと表現した

②「夢は今もめぐりて」は、思い出が今も自分の心をとらえて離さないのだと解釈し、「夢が今でも心をみたしている」と訳した

③ここでは「故郷」を「そこで育ち、幼いころの思い出がある場所」ととらえ、my childhood home と訳した

④「水は清き」の部分は、1番で描かれている「小鮒釣りしかの川」であると解釈し、同じstreamという語を再び使うこととした

 

この歌は、作詞家の高野辰之が自分の生まれ育った長野県の豊田村の山や川についてうたったものですが、これらは歌詞の中では敢えて特定されていません。日本人に共通する「心の故郷」のイメージが浮かんできて、だれもが懐かしく感じるのではないかと思います。

一方イギリスでは、本当の居場所を求めて早く独立し、住む場所を変えることが一般的なので、「いつか故郷に帰りたい」といった郷愁はあまり一般的ではありません。

生まれ故郷に対する思いは国や文化によってさまざまですが、それでもこの歌は世界中の人々にそれぞれのイメージや思い出を呼び起こしながら、親しまれ愛される魅力を持っていると思います。

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