O-LEXブログ

「残念な英語学習者」にならないために ―石井智子

 
 香港在住の友人がいる。日本では20代で外資系投資銀行の管理職になった女性だ。香港に移住してから、中国語を学ぼうと地元の大学に入学した。そこには日本で大学を出たものの、就職できない若者が中国語をマスターして職を見つけようと留学してくるという。彼女によれば、このような日本人の若者にはいくつかの共通点があるのだそうだ。それは:①英語ができない。②リサーチしてpaper(学期末レポートや小論文)を書ける、という意味での基礎学力がない。③コミュニケーション能力が低い。
 
 先日もテレビで学生ローンを借りて大学を卒業したのに就職できなかった若い韓国女性のドキュメンタリーをやっていた。韓国だけではない。大学を卒業したのに職が見つからなくて学生ローンを返済できない若者の存在は日本でもアメリカでも社会問題になっている。大変な時代になったものだ。高校生の皆さんが本物の学力を身につけて、こんな時代を生き抜いて欲しい、と願わずにいられない。皆さんが30代40代になった時、労働環境はどうなっているだろう? 将来に備えて今からどんな勉強をすればいいのだろう?
 
 今年9月17日の「敬老の日」の時点で日本人の24%は65歳以上の高齢者だ。国民の4人に1人が年金生活の高齢者である国の国内市場だけを相手にしていたら生き残れないから、日本企業はコンビニ・外食チェーン・サービス業まであらゆる業種が続々とアジアの新興国へ進出している。このような状況下では労働環境はボーダーレス化する。
 
 私の友人のオランダ人はドイツのブラウン社、フィンランドの携帯会社ノキア、アメリカのマイクロソフト本社と転職し、仕事人生のほとんどで英語を使い、住む場所もベルギー、フィンランド、アメリカと変わった。①仕事で使う言語は母国語ではなく、②住む場所は母国ではなく、③同僚はさまざまな国籍の持ち主、という時代が来ようとしている。外国人学生を採用するユニクロとか、英語を社内公用語にする楽天のような会社は珍しくなくなる。
 
 だから、私は皆さんになるべく早い時期に英語を身につけて欲しい、と思う。まず、英語が話せること。帰国子女のような発音でペラペラしゃべる必要はない。今や英語を使う人間の圧倒的多数は英語を母国語としない人々なのだから、堂々と訛りのある英語を使って差し支えない。高いお金を払って英会話学校に行く必要もない。NHKラジオ英会話とCDを聴きながら、英語教科書の音読だけで充分だ。英語を話す機会があったら参加して、実際に英語を話して自信をつけること。私自身この勉強法で会話に不自由したことはない。
 
 それよりも重要なのは英語を読み書きする能力だ。高校生の時期からペーパーバックやAsahi WeeklyMainichi Weeklyといった英字新聞など、やさしい英語を多読して欲しい。英語学習においては読むことが最も大切だ。理由は2つある:①英語で考える習慣を身につけるため。②英語で情報収集できるようになるため。
 
 文法的誤りがないのに「この英語は通じないなあ。」という英語を書いたり、話したりしている人を見かける。日本語で考え、それをそのまま英語に置きかえているため日本人以外には通じない英語になっている。多読によって英語の発想法・ロジックを身につけて欲しい。
 
 ある程度英語が読めるようになったら、日本で発行されている英字新聞などではなく、是非ともNewsweekTimeなどの海外の新聞・雑誌を読んで欲しい。日本語で情報収集するのと英語でそれをやるのとでは、見える景色が全く違ってくる。日本語で手に入る情報は必ず日本のメディアのフィルターがかかっているからだ。将来の仕事に役立つ情報収集には英語の多読が欠かせない。
 
 次に英語を書けるようにしておくこと。英語にはスピーチから論文に至るまで同じ基本的な構造(序論・本論・結論が1:2:1の比率になっている)というものがあって、これがわからないとpaperも書けないし、スピーチもできない。
 
 高校生ならまず、英語で日記をつけるとか外国にメル友をつくることから始めるとよい。ある程度英語を書くことに慣れたらテーマを決めて書いてみよう。国公立大学には入試に英語の論文やエッセイを課すところがあるので、その問題をやってみよう。学校にネイティブスピーカーの先生がいて書いたものをチェックしてくださるのが一番いいのだが、いなければお金を払ってでもネイティブスピーカーに見てもらうこと。英語を書くことだけは独学ではだめだ。
 
 こんな勉強をしていたら受験勉強の暇がない、と思うかもしれないが、この勉強で受験英語の準備は充分だし、これで入れないような大学には行かないことだ。一歩国外に出れば日本の大学など誰も関心がないのだから、どの大学に進学しようが大勢には影響がない。そんなことより、高校時代の貴重な時間とエネルギーを見当違いな英語の勉強に使って、「残念な英語学習者」にならないことだ。
 
 

【プロフィール】石井 智子(いしい ともこ) 
立教女学院中学・高等学校英語科教諭。立教大学大学院修士課程修了(英文学)、テンプル大学大学院にてTESOL(英語教授法における教育学修士号)修得。
旺文社『全国大学入試問題正解 英語』校閲者。東進ハイスクールセンター模試問題作成者。著書に『日本の行事を英語で説明する辞典』(ナツメ出版)、『まる覚え英検熟語・単語集(2級・準2級・3級・4級)』(中経出版)などがある。
『オーレックス和英辞典』『コアレックス英和辞典』『レクシス英和辞典』で本文執筆を担当。

カテゴリー

最近の投稿