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しゃぼん玉 ―続・日本の歌―

2011年7月20日|連載 続・日本の歌

童謡からロックに至るまで、幅広いジャンルからポピュラーな日本の歌の歌詞の一部を英訳して掲載している『オーレックス和英辞典』のコラム「日本の歌」。ここでは毎月1作品ずつ、全歌詞の翻訳を紹介しています。

7月は「しゃぼん玉」です。シンプルで言葉の繰り返しが多い歌詞ですが、英語ではどのように表現されているでしょうか。東京外国語大学客員教授 Caroline E. Kano 先生による翻訳をお楽しみください。


しゃぼん玉
作詞・野口雨情 作曲・中山晋平

しゃぼん玉とんだ
屋根までとんだ
屋根までとんで
こわれて消えた

しゃぼん玉消えた
飛ばずに消えた
生まれてすぐに
こわれて消えた

風風吹くな
しゃぼん玉とばそ


Soap Bubble
Translated by Caroline E. Kano

Oh, soap bubble, you have flown up high,
As far as the roof, you have flown in the sky;
As high as the roof, you have blown away,
Dissolved and so instantly disappeared.

Oh, soap bubble, you have disappeared,
Flying no further, you have disappeared;
So very soon after you appeared,
You have dissolved and disappeared.

Oh, Mr. Wind, please do not blow;
But let my soap bubble upward float!


①英語では繰り返しを好まないが、ここではもとの歌詞の繰り返しが生む味わいを生かす訳にした

②1番と2番の最後の行は日本語では同じだが、英訳では1番では省略されている主語 You を、2番では前からのつながりで敢えて省略せず、ここでは異なる表現にすることでインパクトを強めた

③風は自然の力強さを連想させるため、英語では男性として擬人化されることが多い。この歌は作詞者の幼くして亡くなった娘をしゃぼん玉にたとえたものであるとする説もあるが、ここではしゃぼん玉で遊ぶ様子を歌った子供のための歌ととらえて、Oh, Mr. Wind と呼びかける訳にした

椰子の実 ―続・日本の歌―

2011年6月20日|連載 続・日本の歌

童謡からロックに至るまで、幅広いジャンルからポピュラーな日本の歌の歌詞の一部を英訳して掲載している『オーレックス和英辞典』のコラム「日本の歌」。ここでは毎月1作品ずつ、全歌詞の翻訳を紹介しています。

6月は「椰子の実」。海の向うから流れ着いた椰子の実に故郷を遠く離れて暮らす寂しさ、帰りたくても帰れない絶望を投影した詩です。東京外国語大学客員教授 Caroline E. Kano 先生の美しい英訳をお楽しみください。


椰子の実

作詞 島崎藤村 作曲 大中寅二

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実ひとつ
故郷の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月

旧(もと)の木は 生(お)いや茂れる
枝はなお 影をやなせる
われもまた 渚を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離の憂(うれい)
海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷の涙

思いやる 八重の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん


Coconut

Translated by Caroline E. Kano

From a far-off unknown isle,
A single coconut drifts ashore:
Separated from the shore of ③thy birthplace,
How long hast thou floated on the waves?

④The tree that bore thee flourishes thick,
And its branches create a canopy shade.
I too have the shore for my pillow,
A solitary roaming voyage.

⑤As I take the coconut, and press it to my breast,
The distress of wand’ring afar grows anew.
As I watch the setting of the sun on the sea,
Tears of longing course down my cheeks.

Reflecting distantly on the folds of the tide,
When, I wonder, might I return to my land!


① one coconut と訳すと two や three でないことを強調したいとき以外は不自然に響く

②「帰りたくても帰れない」という椰子の実の運命と作詞者の孤独感を重ねて、「離れて」は受動的に separated と訳した

③「故郷」は日本的な概念。しばしば hometown と訳されるが、故郷は town とは限らない。ここでは「生まれ故郷」ととらえた

④2番は作詞者が椰子の実に語りかける内容であるが、遠く故郷を離れた境遇の寂しさを分かち合う心情を、原文のような修辞疑問の形をとらず状況描写の中に表現した

⑤3番では、椰子の実に語りかけながらよりいっそう深まる望郷の念と絶望を忠実に英訳した

浜辺の歌 ―続・日本の歌―

2011年5月11日|連載 続・日本の歌

童謡からロックに至るまで、幅広いジャンルからポピュラーな日本の歌の歌詞の一部を英訳して掲載している『オーレックス和英辞典』のコラム「日本の歌」。ここでは毎月1作品ずつ、全歌詞の翻訳を紹介しています。

5月は「浜辺の歌」。歌詞の背景には作詞者である林古渓の実体験が見え隠れするものの、この歌が発表された当時に生じた手違いなどによって、詳しいことは謎のままだそうです。東京外国語大学客員教授 Caroline E. Kano 先生がこの詞をどのように解釈して翻訳したのか、また故郷であり、日本と同じ島国であるイギリスの海岸の印象などについては、この記事とあわせてぜひこちらのエッセイをご覧ください。 ↓

『研究と指導 Argument』 2011年春号 
連載記事 「オーレックスの世界 Behind the Songs」


浜辺の歌

作詞・林古渓 作曲・成田為三

あした浜辺を さまよえば
昔のことぞ しのばるる
風の音よ 雲のさまよ
寄する波も 貝の色も

ゆうべ浜辺を もとおれば
昔の人ぞ しのばるる
寄する波よ かえす波よ
月の色も 星のかげも


Song of the Shore

Translated by Caroline E. Kano

Roaming the shore in ①the early morn,
I recall the things of the past.
In the sound of the wind, ②inthe semblance of the clouds,
In the approaching waves, and the colour of the shells.

Wandering along the shore at ①eventide,
I recall the people of the past.
In the approaching waves, ②in the ebbing waves,
In the colour of the moon, and the twinkling of the stars.


①日本語の文語調に合わせてmorn(あした)やsemblance(~のさま)、eventide(ゆうべ)という語を選んだ

②詠嘆の「よ」を英訳するのは難しいが、同様の効果を期待してinという語を繰り返した

日本語では単数・複数の区別や冠詞の使い分けがないため、ここでいう「昔のこと」や「昔の人」が作詞者の具体的な経験や知人を指すのか、あるいはもっと漠然と遠い昔の人やことを指すのかがはっきりしない。
この歌には、現在ではほとんど歌われることがなくなった3番が存在する。発表当時の手違いで、現在は失われた4番の歌詞と混ざってしまったと言われ、意味が通じない部分があるが、これを読むと歌詞全体が作者の個人的な経験に基づくものではないかと推測できる。しかし、ここではあえてその背景を具体化しすぎずに、悠久の自然に触発され漠然と過去に思いを馳せる歌と解釈して翻訳することとした。