編者からのメッセージ

英語教育の現状をなんとか変えたい。

そのために辞書として何ができるのか。

私たちは、自らにそう問いかけました。そして、その問いに対する私たちなりの答えが「オーレックス英和辞典」「オーレックス和英辞典」「コアレックス英和辞典」です。私たちが目指したのは、生きている英語を忠実に反映すること、日本人学習者のニーズを徹底的に追求すること、そして、「英語は楽しい」と感じて頂ける紙面にすること。レックスシリーズは、そのための仕掛けが満載です。ぜひ、手に取って辞書を読む楽しさを発見してください。
(野村恵造)

英和辞典 和英辞典

編集部より

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英語のオシゴトと私 第21回―奥住桂
言葉で人を動かす仕事

 人を振り向かせるのって、面白い。

 

 だから大学4年生の私は、広告代理店や制作会社に就職して、コピーライターやCMプランナーになることを夢見ていました。当時は今と違って、大学4年生になってから本格的な就職活動を始めるのが一般的でしたので、私も友人たちと同じように様々な企業に資料請求のハガキやエントリーシートを出しながら、ある日ふと気づいたのです。あれ? 業界最大手D社の一次試験の日、私は「教育実習」真っ只中じゃないか?

 

 外国語学部英語学科で学んでいた私が教職課程を履修していたのは今から考えれば中学校で英語教師をしていた父の影響かも知れません。でも当時の私はそれを「ホケン」だと言い、周囲には「絶対に教員にはならない」と言いふらしていました。だから私がD社の一次試験を諦め、教育実習に行ったことを意外に感じた人は多かったかも知れません。自分でも不思議でした。

 

 教育実習中は、授業の内容を考え、配布するワークシートを作成するのがとにかく楽しかったです。塾でアルバイトをしていたので人前で話すことには慣れていて、黒板の前で説明するのにさほど苦労しませんでした。一方で、指示を出して生徒を動かすのはとにかく難しい! そして、自分が「英語のユーザー」としてあまりにも未熟であることを思い知った2週間でした。

 

 教育実習から戻ると、なんとなく就職活動の波は先に進んでいて、実際夏以降には採用活動を終わらせる企業もあって、私は完全に蚊帳の外でした。あれ? なんかおかしいぞ? こんなはずじゃなかった。私は、何をやればいいんだろう? 私は、何になればいいんだろう?

 

 あ、英語を教えるのもいいかも知れない。

 

 たぶん、あまりこの2つを重ねて語る人はいないのではないかと思いますが、当時私にとっては「広告」と「教育」はとても似ている営みでした。商品(英語)に関心のない人たち(生徒)をどうやって振り向かせ、手にとってもらうか。配ったチラシ(ワークシート等)を捨てられないようにするにはどんな工夫をすればいいか。「お試し」を通して、その面白さや便利さを感じてもらうためには、どんな体験を用意すればいいか。そうやって、人の心を動かすためにあれやこれやと考え、モノを作り、提供することが、「広告」にも「教育」にも重要なのだろう、と感じていました。

 

 ただ、広告制作を仕事にしたら、時には自分がいいと思っていない商品でも、「素晴らしいものだ」と感じてもらえるように努力することが求められます。それが仕事だから当然なのですが、果たして私にそれができるだろうか、と疑問に思いました。私が教育実習中にあれだけ夢中になって試行錯誤ができたのは、「外国語」としての英語という商品のよさを、本気で生徒たちに伝えたいと思っていたからじゃないだろうか、と。

 

 それなら、自分の納得の行く商品を売りたい。外国語というツールを身につけることの面白さを本気で「広告」する仕事をしたい。よく考えたら、広告制作会社ではデザインやコピーは分業で別々の人の仕事になりますが、教師は企画から、デザインから、ステージ上のパフォーマンスから、全部1人でできる。なんでもやりたがりの欲張りな私にはぴったりじゃないか。心が決まりました。

 

 とはいえ準備もなしに教員採用試験に受かるはずもなく、就職先未定のまま大学を卒業し、教育委員会からの突然の電話で臨時的任用教員としての日々が始まることになるのですが、そのへんの顛末などは、編著者をさせていただいた『成長する英語教師をめざして』(ひつじ書房)に綴られていますので、機会がありましたらご笑覧いただけたら嬉しいです。

 

 学校教員としての日々は相当にハードで、時に「ブラック」とも言われてしまうレベルですが、あの時D社に就職していても忙しさは変わらなかっただろうなと思うので、結果としてどちらにしても忙しいなら、「納得のいく商品を売ることができた」ことに喜びを感じています。(ちなみに思い出はどんどん都合よく補正されるので、私の中では勝手に「D社を蹴った」ことになっています)

 

 今は縁あって都内の私立大学で教職課程の授業を担当しています。教師になる夢を持って努力を続けている学生を支援するのはもちろん、当時の私のように「なんとなく」教職を取っている学生がいたとしたら、今度はそんな学生たちを振り向かせ、伝えたいんです。

 

 人を振り向かせるって、面白いよ、って。

 

 

【プロフィール】奥住 桂(おくずみ けい)

千葉県野田市生まれ。幼稚園の頃の夢は大工。教員となって放課後に壊れた机を修繕していて叶う。

小学校の頃の夢は漫画家。2020年度より大修館書店『英語教育』誌で2コマ漫画を連載させてもらい実現。

大学時代の夢は、パフォーマーとして人を笑わせること。教壇に立ち中学生に「笑われて」いたのは夢が叶ったと言ってよいものか悩むところ。

埼玉県の公立中学校で英語科教諭として21年間奉職後、2019年より帝京大学教育学部講師。主な共編著・分担執筆に『英語教師は楽しい―迷い始めたあなたのための教師の語り』(ひつじ書房)、『成長する英語教師をめざして―新人教師・学生時代に読んでおきたい教師の語り』(ひつじ書房)、『英語授業ハンドブック 中学校編 DVD付』(大修館)など。

 

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