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新語リポート 第5回 語形成―花本金吾

2016年4月25日|新語リポート

 
 第5回の今回は、辞書編集の最大の生命線とも言うべき語形成について述べてみたい。
 語形成(word-formation)とは、今まで存在しなかった新語や新語句を創造・構成することをいう。特に現代のような変化の激しい時代にあっては、在来の語彙では表現し得ない事物や観念などがあらゆる分野において日々多数生み出されている。
 新しい事物や観念を表す手段としては、第2回目で扱った「語義の拡張・転用」や第34回目で述べた「略語」もあり、また、最終回の次回に予定している「借用(borrowing)」もあるが、中心をなすのは今回扱う部分であり、辞書が時代に対応しているかを問われるのも主にこの部分である。
 語形成は辞書学的には、①「複合(compound)」、②「派生(derivation)」に分類される。以下、それぞれについて具体例を挙げながら述べてみよう。
 ①複合とは、在来の独立した2語(以上)が結合して1語を形成し、新しい意味・機能を獲得することで、できた新語は複合語(compound)と呼ばれる。kiteboarding「カイトボード」、manspreading「交通機関の複数席の一人占め」などのように完全に1語になっているものもあれば、data-mine「データ解析からパターンなどを見つける」、ground-truthing「(空中探査結果の)地上確認」、cord-cutting「コードカッティング(ケーブルテレビの視聴契約をやめ、インターネットに切り替えること)」、future-proof「将来も続けて使える(ようにする)」のように、まだハイフン付きが普通のものもある(1語を創造する点では前回扱ったbrunch式の合成語も同様であるが、合成語の場合は省略部分が必ずあるので、「省略」の範疇で扱われることが多く、本原稿もその線に従った)。しかし圧倒的に多いのは、augmented reality「オーグメンテッド・リアリティ、拡張現実(感)」、deep learning「ディープ・ラーニング」、gig economy「ギグ・エコノミー(短期の請負仕事が一般化された経済。on-demand economyともいう)」などのように、2語(以上)が分離し、二次複合語(secondary compound)あるいは紐状複合語(string-compound)とも呼ばれるものである。さらにいくつかの具体例を以下に挙げておこう。
・brass ceiling
 《米》軍隊内での女性への差別(glass ceilingからの連想)
・growth hacking
 グロースハッキング(製品開発、マーケティングなどの面でクリエイティブな戦略を立てること。その担当者はgrowth hacker)
・game jam
 ゲーム開発ハッカソン(「ハッカソン」はhackathonとつづり、「hack+marathon」からの混成語である。「プログラマーやデザイナーなどの集団による(数日に及ぶ)プログラム開発大会」の意。2009年にGlobal Game Jamが創設された)
・Generation Z
 ゼット世代(1990年~2010頃に生まれた若い世代)
・effective altruism
 効果的利他主義(確固たる分析と論理に基づき、世界の向上を目指す社会運動)
 ②派生とは、独立語に在来の接辞(affix)を付けて新しく1語を作ることで、使われるのは接頭辞が多いが、接尾辞の場合もある。bioclimate「生気候」、biologics「バイオ医薬品」、cyberbullying「ネットいじめ」、declutter「(場所を)片付ける」、disintermediation「中間業者排除、メーカー・消費者直接取り引き」、geodynamics「地球力学」、microgrid「小規模発電網」、unfriend「(SNS上で)友人登録を外す」、Islamophobia「イスラム教嫌い」、Nordophilia「北欧好き」などがその例である。
 古来からの純然たる接辞ではないが、この数十年の間にれっきとした接辞として扱われるようになったものもある。その典型例として-gateがある。これは1970代初期、Nixson大統領の辞任にまで発展したWatergate事件にその端を発するもので、何らかのスキャンダル事件にはこれを付けることが多く、Monicagateをはじめすでに何十とある。昨年1月に行われたアメリカンフットボールのカンファレンス・チャンピオンシップで、New England Patriotsの選手が空気の抜けたボールを使い、全米で大きなスキャンダルになったが、この事件はthe Deflategate (scandal)として定着した。それに使われたボールはDeflategate footballと呼ばれ、驚いたことにこのボールはオークションで4万ドルを超える高値がついた。
 
 
【プロフィール】花本 金吾(はなもと きんご)
早稲田大学名誉教授。専攻はアメリカ文学・アメリカ語法。『全国大学入試問題正解・英語』の校閲のほかに『英熟語ターゲット1000・4訂版』『基礎英作文問題精講・改訂版』(いずれも旺文社)など著書多数。『オーレックス英和辞典』編集委員、『オーレックス和英辞典』専門執筆。

新語リポート 第4回 略語とその種類②―花本金吾

2016年2月12日|新語リポート

 
 第4回の今回は、前回に引き続き略語(abbreviations)、その中でも3つ目の分類である「混成語(blend)」について述べてみたい。
 混成語はblendのほかに、portmanteau word「かばん語」とも呼ばれ、2個の単語それぞれの一部を組み合わせて作る合成語のことである。
 portmanteau wordとは一風変わった呼び名に感じられるが、これがかの有名な童話『不思議の国のアリス』(Alice’s Adventures in Wonderland, 1865)の著者Lewis Carroll(1832-1898)の命名であることを知れば、なるほどと思われる向きも多いのではあるまいか。彼は有名な童話作家である傍ら、オックスフォード大学の講師でもあった。命名はThrough the Looking-Glass and What Alice Found There(1871)という著書の中で行っている。彼が作り、現在も辞書の中に生き続けている語の中には、chuckleとsnortから作ったchortle「高笑う」、gallopとtriumphから作ったgalumph「ぎこちなく[ばたばた]歩く[走る]」などがある。
 しかし2語を1つにまとめるこの表現方法は、簡潔に述べる、滑稽な効果を狙う、意味を強める、など様々な意図のもとに行われるものであるから、当然ながら、Carrollのはるか昔からも行われていたし、スピード化の現代にあってはますますその必要性が高まるのは容易に想像できる。最初は誰かが「一度限りの語(nonce word)」として使ったものが、その場面や時代にマッチする、あるいは理解しやすいなどの理由で広く使われるようになると、ついには新語としての生命を獲得していくことになる。
 多数ある中からいくつか具体例を挙げてみよう。
 現在では「アベノミクス」はすっかり定着した語となり、海外の刊行物でも広く使われている。これは、「Abe+economics」の混成語で、「安倍首相による経済政策」の意味である。この語はその前に定着していたReaganomics「レーガン第40代米大統領の経済政策」やClintonomics「クリントン第42代米大統領の経済政策」を前提としている。
 昨年の前半にはギリシャは経済危機でEUからの脱退が危ぶまれたが、その「脱退」は、Grexitと呼ばれた。「Greek+exit」の混成語であるが、これはその前に定着していたBrexitを前提にしたものである。周知の通り英国では以前からEU離脱を希望する人も多く、キャメロン首相は2017年末までにその賛否を問う国民投票を約束している。Brexitは言うまでもなく、「British+exit」の混成語である。
 最近の国際関係は利害が複雑に絡み合い、敵か味方か見分けがはっきりしないものが多い。こうした関係を表す語の一つにfrenemyがある。これは「friend+enemy」の混成語である。もちろん、「友人でもあり敵でもある人、友人の振りをした敵」の意で個人関係についても使われる。このような相反する意味の2語から混成した語に、coopetition「競争相手との提携」もある。これは「cooperation+competition」の混成語である。逆に似た意味の2語から混成したものとしては、dramedy「コメディードラマ」(drama+comedy)、framily「家族のように親しい友達」(friend+family)などが思い浮かぶ。
 食文化に関する記事でよく見かけるものにlocavore「地産地消主義者」がある。これは「local+vore」の混成語である。voreは、carnivore「肉食動物」、herbivore「草食動物」、omnivore「雑食動物」のほか、voracious「貪欲な」、voracity「貪欲」にも見られるが、「飲み込む」の意の語幹である。
 以上挙げたものはAbenomicsとBrexit、Grexitを除き、すべて和洋いずれかの紙媒体の辞書に収録されている(Brexitあたりも忘れられることはないと思える)。
 辞書に未収録ながらお目にかけたい語は何百とあるが、現代世相を特に色濃く映していると思えるもの数個に限定して紹介しよう。「air+apocalypse(この世の終わり)」からairpocalypse「(中国などに見られる)極度の空気汚染」、「drone+advertising」からdronevertising「ドローンによる広告」、「fare+forecasting」からfarecasting「航空券の最安値日予想」、「hack+activism」からhacktivism「政治的意図によるハッキング」(当然hachtivistもある)、「slacker(怠け者)+activism」からslacktivism「スラクティヴイズム、一人よがりの社会運動めいた行為」などがそれである。この中でいずれかの辞書に収録されて生き残るのは、いくつになるのだろうか。
 
 
【プロフィール】花本 金吾(はなもと きんご)
早稲田大学名誉教授。専攻はアメリカ文学・アメリカ語法。『全国大学入試問題正解・英語』の校閲のほかに『英熟語ターゲット1000・4訂版』『基礎英作文問題精講・改訂版』(いずれも旺文社)など著書多数。『オーレックス英和辞典』編集委員、『オーレックス和英辞典』専門執筆。

新語リポート 第3回 略語とその種類①―花本金吾

2015年12月16日|新語リポート

 
 英和辞書の編集作業における新語の扱いについて全6回の予定で話を進めているが、第3回の今回は略語(abbreviations)について述べてみたい。
 略語は長い語(句)や概念を短縮したものなので、書く場合にはスペースの節約になるばかりか、話す場合にも素早い意思の疎通が図りやすくなる。略語は日々数多く生み出されており、瞬時に消えてしまうものがある一方で、長く生存権を獲得していくものもある。辞書編集に際しては、それらの見極めが重要な作業の一つになる。
 略語は一般的には、①語(句)の一部を切り取って作る「端折り語(clipped word)」、②複数の語群または複合語のそれぞれの頭文字を並べて作る「頭(かしら)文字語、頭字語(initialismまたはacronym)」、③2個の単語それぞれの一部を組み合わせて作る「混成語(blend)」の3つに分類される。
まずは、それぞれについて具体例を示そう。
 ①「端折り語」はstump-word(切り株語)、elliptical word(省略語)などとも呼ばれるが、application(s)「アプリ」を意味するapp(s)、advertisement(s)「広告」を意味するad(s)などがその典型例である。return (ticket)、oil (painting)のように複合語の第2要素を省略する、いわゆるclipped compoundはあまり多くはないが、これも端折り語に属する。作り方としては語頭を残すものが多いが、(heli)copter、(tele)phoneのように語尾を残すものや、(in)flu(enza)、(de)tec(tive)のように中央部を残したものもある。また人名の愛称では、Elizabethのように、Liz [Lizzie, Lizzy]、Beth [Betty, Bettie]と異なる部分を略す場合もある。
 ②「頭文字語」では、BBCBBCBritish Broadcasting Corporation)「英国放送協会」やBSEBSEbovine spongiform encephalopathy)「牛海綿状脳症、狂牛病」のように、略語のアルファベットを1字ずつ発音するものと、MOOC(s)MOOCmassive open online course(s))「大規模オープンオンライン講座」やAIDSAIDSAcquired「Immune Deficiency [OR Immunodeficiency] Syndrome)「後天性免疫不全症候群、エイズ」のように、独立した単語として発音するものとの2種類がある。かつては前者をinitialism、後者をacronymと称し、区別して扱われることも多かったが、現在ではその区別はほぼなくなった。その結果、initialismとacronymはほぼ完全な同義語となった。
 区別がなくなったのには、それなりの理由が考えられる。最近では、例えば、VAT(value-added tax)「付加価値税」のようにVAT1VAT2の二通りに発音するものや、DVD-ROMDVDROMのように1つの略語の中に2種類の発音の仕方が混ざったものも増え、区別をする意味が失われてしまったわけである。
 この②の範疇に入る略語として、この数日の間にぼくの目に触れたものには、TPP(Trans-Pacific (Strategic Economic) Partnership (Agreement))「環太平洋(戦略的経済)連携協定」、TTIP(Transatlantic Trade and Investment Partnership)「環大西洋貿易投資パートナーシップ」、LGBT(lesbian, gay, bisexual and transgender)「性的マイノリティー」(最近ではquestioningあるいはqueerを表すQを加えて、LGBTQとすることも増えた)などがある。
 特にSNS上ではスペース上の制約から一つの概念を表す略語が生まれやすく、ユーモア感を持つものも多い。最近ますます広く使われるようになっているemoji「絵文字」は、略語そのものではないが、シンボルによって意思の疎通を図ろうとする点では、この種の略語と意図を一つにするものと言えるであろう。
 具体例は、TGIF(Thank God It’s Friday)「やれやれやっと金曜日だ」、NIMBY(not in my backyard)「ニンビー(的態度)」、FOMO(fear of missing out)「(SNSを使わないときの)一人取り残される恐怖」、YOLO(You Only Live Once)「人生は一度きりだ」などである。
 最後の③「混成語」とは、breakfastとlunchとを組み合わせて作ったbrunchのような略語のことである。多産な範疇であるが、これについては次回に譲らせていただくことにする。
 
 
【プロフィール】花本 金吾(はなもと きんご)
早稲田大学名誉教授。専攻はアメリカ文学・アメリカ語法。『全国大学入試問題正解・英語』の校閲のほかに『英熟語ターゲット1000・4訂版』『基礎英作文問題精講・改訂版』(いずれも旺文社)など著書多数。『オーレックス英和辞典』編集委員、『オーレックス和英辞典』専門執筆。