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新語リポート 第4回 略語とその種類②―花本金吾

2016年2月12日|新語リポート

 
 第4回の今回は、前回に引き続き略語(abbreviations)、その中でも3つ目の分類である「混成語(blend)」について述べてみたい。
 混成語はblendのほかに、portmanteau word「かばん語」とも呼ばれ、2個の単語それぞれの一部を組み合わせて作る合成語のことである。
 portmanteau wordとは一風変わった呼び名に感じられるが、これがかの有名な童話『不思議の国のアリス』(Alice’s Adventures in Wonderland, 1865)の著者Lewis Carroll(1832-1898)の命名であることを知れば、なるほどと思われる向きも多いのではあるまいか。彼は有名な童話作家である傍ら、オックスフォード大学の講師でもあった。命名はThrough the Looking-Glass and What Alice Found There(1871)という著書の中で行っている。彼が作り、現在も辞書の中に生き続けている語の中には、chuckleとsnortから作ったchortle「高笑う」、gallopとtriumphから作ったgalumph「ぎこちなく[ばたばた]歩く[走る]」などがある。
 しかし2語を1つにまとめるこの表現方法は、簡潔に述べる、滑稽な効果を狙う、意味を強める、など様々な意図のもとに行われるものであるから、当然ながら、Carrollのはるか昔からも行われていたし、スピード化の現代にあってはますますその必要性が高まるのは容易に想像できる。最初は誰かが「一度限りの語(nonce word)」として使ったものが、その場面や時代にマッチする、あるいは理解しやすいなどの理由で広く使われるようになると、ついには新語としての生命を獲得していくことになる。
 多数ある中からいくつか具体例を挙げてみよう。
 現在では「アベノミクス」はすっかり定着した語となり、海外の刊行物でも広く使われている。これは、「Abe+economics」の混成語で、「安倍首相による経済政策」の意味である。この語はその前に定着していたReaganomics「レーガン第40代米大統領の経済政策」やClintonomics「クリントン第42代米大統領の経済政策」を前提としている。
 昨年の前半にはギリシャは経済危機でEUからの脱退が危ぶまれたが、その「脱退」は、Grexitと呼ばれた。「Greek+exit」の混成語であるが、これはその前に定着していたBrexitを前提にしたものである。周知の通り英国では以前からEU離脱を希望する人も多く、キャメロン首相は2017年末までにその賛否を問う国民投票を約束している。Brexitは言うまでもなく、「British+exit」の混成語である。
 最近の国際関係は利害が複雑に絡み合い、敵か味方か見分けがはっきりしないものが多い。こうした関係を表す語の一つにfrenemyがある。これは「friend+enemy」の混成語である。もちろん、「友人でもあり敵でもある人、友人の振りをした敵」の意で個人関係についても使われる。このような相反する意味の2語から混成した語に、coopetition「競争相手との提携」もある。これは「cooperation+competition」の混成語である。逆に似た意味の2語から混成したものとしては、dramedy「コメディードラマ」(drama+comedy)、framily「家族のように親しい友達」(friend+family)などが思い浮かぶ。
 食文化に関する記事でよく見かけるものにlocavore「地産地消主義者」がある。これは「local+vore」の混成語である。voreは、carnivore「肉食動物」、herbivore「草食動物」、omnivore「雑食動物」のほか、voracious「貪欲な」、voracity「貪欲」にも見られるが、「飲み込む」の意の語幹である。
 以上挙げたものはAbenomicsとBrexit、Grexitを除き、すべて和洋いずれかの紙媒体の辞書に収録されている(Brexitあたりも忘れられることはないと思える)。
 辞書に未収録ながらお目にかけたい語は何百とあるが、現代世相を特に色濃く映していると思えるもの数個に限定して紹介しよう。「air+apocalypse(この世の終わり)」からairpocalypse「(中国などに見られる)極度の空気汚染」、「drone+advertising」からdronevertising「ドローンによる広告」、「fare+forecasting」からfarecasting「航空券の最安値日予想」、「hack+activism」からhacktivism「政治的意図によるハッキング」(当然hachtivistもある)、「slacker(怠け者)+activism」からslacktivism「スラクティヴイズム、一人よがりの社会運動めいた行為」などがそれである。この中でいずれかの辞書に収録されて生き残るのは、いくつになるのだろうか。
 
 
【プロフィール】花本 金吾(はなもと きんご)
早稲田大学名誉教授。専攻はアメリカ文学・アメリカ語法。『全国大学入試問題正解・英語』の校閲のほかに『英熟語ターゲット1000・4訂版』『基礎英作文問題精講・改訂版』(いずれも旺文社)など著書多数。『オーレックス英和辞典』編集委員、『オーレックス和英辞典』専門執筆。