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メタファーの森 第5回 愛のメタファー ―内田諭

2012年9月4日|メタファーの森

‣‣はじめに
 今回はまずメタファーに関する概念を少し整理することから始めたいと思います。これまで登場したメタファーは“X is Y.”(例:Life is a journey.)という形式で表されていました。つまり、メタファーにはXとYという2つの要素があることになります。Xはサキ領域(target domain)と呼ばれ、メタファーで表現される対象となるもので、多くは抽象的な概念になります。一方、Yはモト領域(source domain)と呼ばれ、表現の「材料」となるものです(こちらは具体的で経験可能なものになります)。メタファーとは、モト領域の構造や性質が、サキ領域にマッピング(写像)された表現だということができるでしょう。
 一つの概念は、様々なものに見立てられることがあります。例えば、「時間」の表現の裏には<Time is money.>や<Time is motion.>などのメタファーがあることを前回の記事で紹介しました。 一方、Yに来るものも、様々なメタファーのモトになります。例えば、「旅」は<Life is a journey.>や<Love is a journey.>など、「人生」や「愛」のモトになります。それ故、「人生」と「愛」の表現は似たものになります。以下では、「愛」を表すメタファーについて見ていきましょう。
 
‣‣愛は旅である
 <Love is a journey.>というメタファーに基づいた表現は次のようなものがあります。

 【Love is a journey.】
 1. Tom and Mary are in a dead-end relationship.
   トムとメアリーの関係は行き詰まっている
 2. Tom and Mary are at a crossroads in their relationship.
   トムとメアリーの関係は岐路にある
 3. Tom and Mary chose to go separate ways.
   トムとメアリーは別の道を歩むことを選んだ
 4. Our marriage is on the rocks. 私達の結婚は暗礁に乗り上げている

 1の例は恋人同士の関係が行き詰まった状態にあることを表します。それ以上前進することができない「どん詰まり」の道はdead-endと言いますが、これが恋愛関係に適応された例です。2のcrossroadは文字通りには「交差点」という意味ですが、そのまま関係を続けるのか、別れるのかといった分岐点にあることを表現しています。3の例は、同じ道を旅してきた恋人が別れて別々の道を進むことを表します。4のon the rocksという表現は、文字通りには「岩に乗り上げている」ということで、船が座礁している様子を指す表現です。その様子を愛(ここでは特に結婚)について当てはめると、問題(岩)によって前に進むことができない状態を表しています。
 これらの表現は、第1回の記事で紹介した<Life is a journey.>というメタファーと非常に似ていることに気がつくと思います。次の文と比べてみて下さい。

 【Life is a journey.】
 5. My life is in a dead end. 私の人生は行き詰まっている
 6. My brother and I chose to go separate ways. 弟と私は違う道を進むことを選んだ
 7. I’m at a crossroads of my life. 私は人生の岐路に立っている
 8. My life is on the rocks. 私の人生は暗礁に乗り上げている

 このようにモト領域が共通すると、表現は類似したものになるということがわかると思います。つまり、材料となるモト領域の共通性から、「人生」も「愛」も何か目指すべきところ(目的地)があり、そこに向かって進んでいく(旅をする)という類似の構造が浮かびあがってきます。
 
‣‣愛とは…?
 「愛」をテーマにした文学や音楽の作品は非常に多く存在します。これらの作品は「愛」という抽象的な概念を形のあるものとして「表現」しようとする試みだと言えるかもしれません。
 「愛」に関するメタファーもまた数多く存在します。<Love is a journey.>もその一つですが、ここではそれ以外のメタファーを見ていきましょう。

 【Love is fire.】
  9. My heart is on fire. 私の心に火がついた
 10. I’m burning with love for her. 私は彼女に恋焦がれている
 11. I don’t want to get burned again. もう(恋で)やけどはしたくないんだ
 12. She’s an old flame. 彼女は昔の恋人だ

 上の例は、「愛」を「火」に喩えた表現です。日本語の訳からもわかるように、このメタファーは日本語にもしっかりと存在しています。12の例のold flame(文字通りには「昔の炎」)は、英語独特で面白い表現です。

 【Love is a string.】
 13. There once was a romantic tie between them.
    かつて彼らの間には恋愛関係があった
 14. You should cut ties with a man like him. 彼みたいな男とは関係を断ったほうがいいよ
 15. I feel linked with her by destiny. 彼女と運命の糸で結ばれている気がする
 16. She has little attachment to her boyfriend any more.
    もはや彼女は彼にほとんど愛情を持っていない
 17. My sister is going to tie the knot with her classmate next year.
    姉は来年クラスメートと結婚する予定です

 13-17は「愛は糸である」というメタファーに基づいた表現です。恋愛関係にある二人が糸で結ばれているというイメージからこれらの表現が生まれたと考えることができます(日本語では「運命の赤い糸」という表現があります)。糸を結ぶことは恋愛関係になること、糸を切ることは恋愛関係を解消することになります。17のtie the knotは「結婚する」という意味の慣用表現です。

 【Love is fluid in a container.】
 18. My heart was filled with love. 私の心は愛で満たされた
 19. Tony has poured out his love on his wife. トニーは妻に愛を注ぎ続けてきた
 20. My heart overflows with love for you. あなたへの愛で心が溢れそうです

 18-20の例は、「愛は容器に入った液体である」というメタファーに基づいています。英語の感情表現はこのように容器に入った液体と見立てられることがよくあります(→怒りのメタファー)。日本語の「溺愛する」という表現も、「溺れるくらい大量の愛を注ぐ」ということだと解釈すると、「愛」は「液体」に見立てられていることがわかります。
 
 この他にも<Love is nutrient.>(愛は栄養である)というメタファーからHe is starved for love.(彼は愛に飢えている)といった表現や、<Love is sickness.>(愛は病気である)というメタファーを基にしたlove sickness(恋煩い)といった表現があります。
 
‣‣まとめ
 今回は「愛」を表すメタファーについて見てきました。モト領域が同じ場合(例:lifeとlove)、似た表現が用いられること、また、「愛」は表現するのが難しい概念故、多くのメタファーが存在することを示しました。
 この連載は次回で最後となります。これまで見てきたもの以外にも、英語には様々なメタファーが息づいているということを、具体例を挙げて見ていきたいと思います。
 
 
 
【プロフィール】 内田 諭(うちだ さとる)
東京外国語大学特任講師。専門は認知意味論・語用論・辞書学。『オーレックス英和辞典』ではNAVI表現を担当。著書に『連関式英単語LINKAGE』(Z会,2011年)など。