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メタファーの森 第4回 時間のメタファー ―内田諭

2012年7月2日|メタファーの森

‣‣はじめに
 今回から個別の概念を取り上げ、それが英語ではどのようなメタファーによって表されるのかを見ていきます。当たり前のように思えることもあるかもしれませんが、それは「当たり前」と思えるくらいにメタファーが言語に根付いているからだと言えます。その「当たり前」を掘り返して客観的にみることで、英語の表現を深く理解し、表現の幅を広げることができるようになります。今回は「時間(time)」について見ていくことにしましょう。
 
‣‣時は金なり
 Time is money.(時は金なり)ということわざがあります。実はこれはそのままメタファーとして英語の表現に深く入り込んでいます。つまり、「時間」という目に見えない抽象的な概念を、「お金」という具体的な形になぞらえることで、時間についてさまざまな意味を表現できるのです。

 【Time is money.】
 1. I spent a lot of time with her. 彼女とはたくさんの時間を過ごした
 2. The company has invested a lot of time in this project.
   その会社このプロジェクトに多くの時間を費やしてきた
 3. In programming, a simple mistake can cost you hours of wasted time.
   プログラミングでは単純なミスで何時間も無駄な時間がかかることがある
 4. You should budget your time for each question properly.
   それぞれの問題に適切に時間配分をすべきだ
 5. This software will save you a lot of time.
   このソフトで多くの時間を節約できるでしょう
 6. I’m running out of time for the deadline. 締め切りまでもう時間がない

 spendは「(お金を)費やす」のほかに「(時間を)過ごす」という訳が一般的に用いられるため、あまりメタファーだという印象を受けないかもしれませんが、invest, cost, budgetなど、お金に関連する語彙が多く使われていることに注目してください。このことからこれらの表現の裏には “Time is money.” というメタファーが隠れているということがわかるでしょう。
 
‣‣時間は動く
 Summer vacation is approaching.(夏休みが近づいてきている)という表現では、「時間」は「動き」としても捉えられます。動いているものは「時間」(夏休み)で、それが「私たち」に近づいてきているという捉え方です。

 
 Time passed very quickly.(時間はあっという間に過ぎた)という表現も、静止している「私たち」の前を、「時間」が動いて過ぎていったということがイメージできると思います。
 逆に、時間ではなく、「私たち」が動くという表現も可能です。We’re approaching the end of the year. (私たちは年の瀬に向かっている)という表現がその例です。

 
 このように、時間を動きとして捉えた場合、「時間」が動く表現と、「主体」が動く表現に分けて考えることができます。それでは具体的に英語の表現を見てみましょう。

 【Time is motion.】
 Moving time
 1. The New Year is approaching. 新年が近づいてきている
 2. The exam period is drawing near. テスト期間が近づいてきている
 3. Spring is coming. 春が近づいている
 4. Time passed very quickly. 時間はあっという間に過ぎた
 5. The time has come for us to change. 変わるべき時がきた
 6. Time flies like an arrow. 光陰矢の如し
 7. Time marches on. 時は刻々と過ぎゆく
 Moving ego
 8. We are heading for Christmas. もうすぐクリスマスだ
 9. We are getting close to the summer vacation. 夏休みに近づいている
 10.We’re approaching the end of the year. 私たちは年の瀬に向かっている

 これらの表現を見てみると、「時間」と「主体」の接近に関する表現が多いことがわかります。その際、動く側が主語となっていることがわかるでしょう。「時間」が主語の表現のほうがどこか客観的で、「主体」が主語の場合は主観的でダイナミックな表現になっていることも見て取れます。
 6.と7.は、使われる動詞によって時間の動き方をうまく捉えた表現です。6.のflyは「飛ぶ」ことで時間の動くスピードを、7.ではmarch(行進する,整然と進む)が、時間が残酷なまでに規律正しく進んでいく様子を捉えています。
 
‣‣まとめ
 今回は「時間(time)」に関する英語のメタファーをみました。 “Time is money.” と “Time is motion.” というメタファーを取り上げ、後者には「時間」が動く “Moving time” と「主体」が動く “Moving ego” という2つの下位分類も考察しました。
 次回は、「愛(love)」についてのメタファー表現を紹介していく予定です。
 
 
 
【プロフィール】内田 諭(うちだ さとる)
東京外国語大学特任講師。専門は認知意味論・語用論・辞書学。『オーレックス英和辞典』ではNAVI表現を担当。著書に『連関式英単語LINKAGE』(Z会,2011年)など。