英語教育の現状をなんとか変えたい。
そのために辞書として何ができるのか。

私たちは、自らにそう問いかけました。そして、その問いに対する私たちなりの答えが 「オーレックス英和辞典」「オーレックス和英辞典」「コアレックス英和辞典」です。私たちが目指したのは、生きている英語を忠実に反映すること、日本人学習者のニーズを 徹底的に追求すること、そして、「英語は楽しい」と感じて頂ける紙面にすること。レックスシリーズは、そのための仕掛けが満載です。ぜひ、手に取って辞書を読む楽しさを発見してください。

野村恵造

2016.08.02

新語リポート 第6回 借用語 ―花本金吾

 
 最終回の今回は、借用語について述べてみる。借用とは文字どおり、ある言語が別の言語から単語や表現を外来語として借用してくることで、borrowingやloanと呼ばれている。
 この借用という現象は異なる文化が接触した場合には、大小の差はあるが、必ず起こる。他の言語を圧して完全に世界語となった英語の場合には、世界各地からの借用語もどんどんとその数を増やし続けている。その流れは特にインターネットの普及によって加速した部分も大きいが、英語は歴史的にも借用語の比率が他の言語に比べて圧倒的に高く、その3分の2が借用語であるといわれている。
 その理由は、英語がたどったその複雑な歴史にある。英語はゲルマン民族の一分派アングロ・サクソン(Anglo-Saxon)の言語が母体である。アングロ・サクソンがヨーロッパ大陸からケルト系の先住民族Britonの住むブリテン島に侵攻した5世紀ころには、ブリテン島はすでにローマ帝国に征服されその支配下にあった。ここでアングロ・サクソンは上流社会を形成していたローマ軍からラテン語を多く借用した。
 その後、9~11世紀にかけては北欧からの侵攻を受け、借用を続けながら語尾変化の簡素化などの文法面での変化も進めた。
 そして英国史上での一大事件であるノルマン・コンクエスト(Norman Conquest)が1066年に起こった。ノルマン人は元来はゲルマン民族であるが、イングランド征服までにはラテン系言語圏での在住が長かったために、彼らの言語はそのラテン系言語のフランス語であった。被征服者であったイングランド人たちは競ってフランス語を身につけたので、ついにはゲルマン系言語の英語とラテン系言語のフランス語が共存するような形態となった。宮廷・法廷・大学などでは3世紀にもわたってフランス語が公用語として使われた。
 その後文芸復興の波はイングランドにも押し寄せ、ギリシャ・ローマの古典研究が盛んになることによって、ギリシャ語・ラテン語からの借用もさらに進んだ。学問名や動植物の学名などにはこの2つの古典語の要素を組み合わせたものが多く、現代科学はこの時代の借用に大きな恩恵を受けていることがわかる。
 ところで、日本語からは英語にどの程度の借用があるのであろうか。先ほど述べたように、現代英語の3分の2は借用語で、そのほとんどをラテン語、フランス語、そしてギリシャ語が占め、他の言語は残りの数パーセントを占めているに過ぎないといわれている。その数パーセントの中では、日本語はスペイン語と並んで比重が高いとされる。
 英語が日本語からの借用を受け入れ始めたのは、日本と西洋が初めて接触した16世紀半ばまでさかのぼる。最初は主に宣教師を通じて、そして鎖国時代には唯一交易を許されていたオランダ商人などを通じて、間接的に少数の日本語が英語に受け入れられた。わが国に最初に来たといわれる英国人William Adamsは、手紙の中でwacadash(脇差)やinro(印籠)を書き残した。
 大規模な受け入れが始まったのは、当然ながら開国後の、特に明治維新以降である。これを第一の大きなうねりとすれば、第二のうねりは第二次大戦以降といえよう。今年5月、広島での演説の中でオバマ大統領はhibakushaという言葉を二度使ったが、この語は広島の被爆直後から使われていた。なお参考までに、denshosha(伝承者)も英語として使われることがある。
 日本語からの借用語はほぼ日本語の発音どおりにローマ字式に綴られることが圧倒的に多いが、中には例えば、honcho(班長)、hoo(t)ch(家)、rickshaw [ricksha](人力車)、ginkgo [gingko](イチョウ)などのように完全に英語化した形の語もあれば、futonfutonのように綴りはローマ字式だが、発音が異なったり、さらに別の意味を持ったりする語もある。
 2013年にはwashoku(和食)がユネスコの無形文化遺産として登録された。料理に関する語は日本人シェフの海外での活躍などもあり、数多くが英語になっている(筆者はかつて、米西海岸でpanko(パン粉)と銘打った商品が大量生産されて店先に並べられているのを見て驚いた記憶がある)が、日本食は健康食としても人気を得ており、借用される語は今後さらに増えることが予想される。また、食に限らず日米間の友好の深化の中で、あらゆる面での相互の借用は活発で、すでに第三のうねりに達しているといえるのかもしれない。
 以上、全6回にわたり「新語レポート」と銘打って辞書編集の一側面について述べてきた。最後までお付き合いくださった方には感謝申し上げたい。
 
 
【プロフィール】花本 金吾(はなもと きんご)
早稲田大学名誉教授。専攻はアメリカ文学・アメリカ語法。『全国大学入試問題正解・英語』の校閲のほかに『英熟語ターゲット1000・4訂版』『基礎英作文問題精講・改訂版』(いずれも旺文社)など著書多数。『オーレックス英和辞典』編集委員、『オーレックス和英辞典』専門執筆。


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